大崎善生「アジアンタムブルー (角川文庫)」についての私見

前作「パイロットフィッシュ (角川文庫)」がまあまあ良かったので今作も読むことにしました。結論からいうと、良い作品だけど「パイロットフィッシュ」には劣るというものでした。この同工異曲作戦(!?)というのは大体前作を超えないんですね。SMAPが「世界に一つだけの花」の後にエリック・クラプトン作曲で似たようなのを出したけどイマイチだったように。そう考えると浜崎あゆみは「A Song for ××」の後の「WHATEVER」で同工異曲の「version J」ではなくリミックスの「version M」をA面にしたことは今後の展開でも大きかったのではないか、と思う。
大分話がずれてしまった。
で、「アジアンタムブルー」なんですけど、主人公および環境の設定が「パイロットフィッシュ」と同一です。しかしまったくリンクしないというボクが読んできた中では初めてのパターンですね。村上春樹村山由佳恩田陸といったボクの好きな作家さんは同じ主人公を複数の作品に登場させて微妙な関係を構築しているのですが、大崎さんの今回結ばなかった関係は次作で結びつくのでしょうか?
話自体も「愛する人が死にそうだ。そうだ!外国へ行こう」というどこかで聞いたことあるような展開となっています(苦笑)。喪失と再生がテーマですね。その間にある(アジアンタム)ブルーが美しい装丁とともに描かれています。この手の話に斬新な展開とか期待していないのだ。
亡くなる人の周りにいる人々のキャラクターが良くできていました。被写体の親友、旅行先のタクシー運転手、ペンションの経営者。本当に良い人たちで、会った訳ではないのに、その優しさにじーんときました。
読む前に変に気構えることなく普通に物語の中にスッと入ることができて、切ない気持ちになります。「最初の登場人物とか何のためにいるんだろう」とか思うかもしれませんが。でも次作も楽しみにしたいと思います。