鷺沢萠「私の話 (河出文庫)」についての私見

河出文庫リニューアルの第1弾として出た訳ですが、どう考えても目玉は綿矢りさたんの「インストール (河出文庫)」。本編のあとで書き下ろしの短編を収録するという手の込んだことをしてきましたが、単行本と文庫本を両方持つ習慣はないので泣く泣く立ち読みですませてしまいました。ごめんりさたん。
ああ、表題の本について書かなければ。あらゆる意味で痛い小説ですね。私小説であるが故にリアルであること、さらには周りのこと(特に韓国の血を持ち、それを隠してきた祖母)をさらけ出したことによる弊害、かつてと比較しての筆力の低下(これは個人的な意見であるが)。あらゆることが痛かった。一気に読んだけど。
この人の初期の作品は非の打ち所がなかった。高校のとき河合塾全統模試で出題されたぐらいだ。会話文と地の文の緩急がすごかったのだ。
しかしいつからだろう、言いたいことを「かぎかっこ」で括るようになったのは。これによって主張が明らかになったのは確かだけど、これでは文章題にならない。というのはつまらない冗談で、「かぎかっこ」を置くことによって文章を読むリズムが悪くなった。この人の往年の筆力ならばそんなことをする必要はないのになぁ(実際そうしてなかったように思える)。
そして本作で彼女は不器用なりに一生懸命生きようとがんばっている。その態度には敬意を表するのだけど、どうしても彼女の出した最後の答えを思うと納得できない気持ちになってしまう。どうしてあんなことになったのだろう。