村山由佳「星々の舟 Voyage Through Stars (文春文庫)」についての私見

集英社が手塩にかけて育てた作家もついに他の出版社で本を出すようになった。本作は直木賞を射止めた訳であるが、版元は文藝春秋。出版社によってその作家に対するイメージが変わってくるのだけど、ボクはそれをずっとフォントの違いだと思っていた。ところが今作を読むと、それは社風というか、編集者の違いなのかな、と思った。それとも村山さんが新しい世界を書きたいと思ってわざと硬質な文体にしたのか(それでも読みやすい)。
今作では家族というテーマを取り上げたこと、戦争(靖国従軍慰安婦問題)を取り上げたことが大きな挑戦だったように思える。前者は中上健次柳美里がライフワークとして取り組んできたテーマであり、後者については戦後生まれが語ろうとするとどうしても説得力とリアリティの欠如が問題となってくる。宮本輝はあっさりクリアしたけど。
そんなこともあって、読後感を一言で言うとぐったり(苦笑)。村山由佳の小説はいつも優しいので、圧倒された訳ではない。だけどその話が持つ重さにつぶされた気がする。直木賞という大衆文学最高峰の賞を獲った訳だけど、ボクとしては「不完全だけど、愛すべき小説」という評価を与えたいと思う。少なくともストーリーテリングの能力は屈指だ。