村上春樹「東京奇譚集」についての私見

この本が出るって全然知らず、「チョコレート工場」探しに行ったらひっそりと(でも確かに)陳列されていた。いや、良かった。「回転木馬のデッド・ヒート (講談社文庫)」を一歩間違いなく進めた内容で、短編集としても結末がしっかりしている。これが長篇にフィードバックされたら大変なことになるだろう。

偶然の旅人 ★★★★★

いきなり作者が出てくる、という展開はビートたけしの「新・坊っちゃん (OHTA BUNKO)」を思い出した(笑)。それはともかくとしてだ、人生におけるささやかな歓び、兄弟の絆が描かれている。この話だけでも読んだ方が良いと思う。

ハナレイ・ベイ ★★★★★

「偶然の旅人」以上の話はないだろうなと思ったけど、次がそれに近い水準の話だった(印上は同点数)。ハワイでのサーフィン中に息子を亡くした母親の話。亡くした人を思って海辺にたたずむシーンというのは非常に情景描写がしやすく、感情移入がすんなりできる。

どこであれそれが見つかりそうな場所で ★★★

夫が行方不明になったという女性の依頼を受けて「私」がマンションの階段に通う話。子どもがいささか頭が良すぎるのがいけない。十全に理解できなかった、という意味では奇妙な話だった。

日々移動する腎臓のかたちをした石 ★★★

「男が一生に出会う中で、本当に意味を持つ女は三人しかいない。それより多くもないし、少なくもない」というあまり仲良くなかった父親の言葉に捉われている淳平(子ども、31歳)の話。示唆に富んでいるけどやっぱり理解できなかった。会話の終わりに「(笑い)」をつけるなど新たな試みも行われている。

品川猿 ★★★★

ときどき自分の名前だけを忘れてしまう女性の話。
ところでこの話では話す猿が出てくる。「かえるくん」といい「海辺のカフカの猫」といい、動物がしゃべるのはよくあることなのだけど、これがものすごく自然に思えるのが不思議だ。これも良い。

朝日新聞村上春樹の書評がいつも面白かったのだけど、今回のはどんな感じだったんだろう。本屋にコピーのPOPがあるといいのだけど(いま朝日新聞をとっていない)。